KOLLAMAT® PICK UP
革のようなぬくもり、プラスチックのような機能性。 そしてサステナビリティをも兼ね備えた、新たな複合素材「KOLLAMAT®」。
本素材を開発したドイツの老舗皮革メーカーBADER社。前編ではバーダー・ジャパン代表のトーマス・シュピンレル氏に、KOLLAMAT®との出会いや、素材の特性、松井製作所との取り組みつにいて伺いました。後編では、日本市場に向けた挑戦と文化的な翻訳者としての役割、そしてデザイナーへの熱いメッセージに迫ります。
<<前編はこちら>>
文化の架け橋としての使命
―日本展開において苦労されていることはありますか?
私個人としては、文化の違いを感じています。
日本とドイツでは、素材に対する価値観や製品開発の進め方に違いがあり、それを橋渡しするのが私の重要な役割の一つです。
BADER本社は13カ国の生産拠点を持つ大きな組織です。例えるならオイルタンカーみたいなもの。決まれば力強く進みますが、重いからそう簡単には動きません。
それに比べて、日本企業はスピードボートのように感じます。
だから、日本でこの1年の間にやったことが、ヨーロッパで14年もかかってやってきたことだったりします。自分で自分に文句を言うようですが、ヨーロッパ人は少し行動が遅くてのんきですね。
それに、デザインに対する好みの違いもあります。
たとえば、色に対する感覚の違いがあります。KOLLAMAT®に着色をした時、日本では赤と緑に人気が集中します。でもヨーロッパではこの組み合わせは不人気です。例えば赤のドレスに緑のブラウスは気持ち悪い色の組み合わせだと感じます。
そういう好みの違いがあるので、カタログやウェブサイトの写真を選ぶ時でも、ドイツ人の僕がいいと思っているものが日本では全然通じない。

話は少し変わりますが、私の知り合いの女性が半年ほど、信楽焼の勉強に来ていたことがあります。彼女も陶芸は結構うまいんですよね。向こうでも店持っているくらい。でも、日本人は彼女の作品を見ても「(整いすぎて)つまらない」と感じます。
逆に、彼女が日本の信楽焼を見ると、歪んだり切れたりしているので「NGじゃない?ゴミじゃないですか?」とか言う。
ある日、人間国宝がティーポットを作るところを彼女と一緒に見に行きました。その人は小さいティーポットを作った後に、別に蓋を作ったんです。
そこで彼女がすごい混乱していたんですよ。
普通、ティーポットの蓋は本体を丸くワイヤーで切って作る。別々に作ることはないと。だけど完成した蓋は、本体に取り付けても1ミリもガタガタしてない。もうそれはマスターの技術なんですよね。
そういう日本の文化と向こうの文化の通訳をしながら橋渡しをするのが私のチャレンジ。日本人が求めるものをドイツの本社に話したら「え、何それ?」と言われることが絶対出るでしょうし、言葉だけではないんですね。やっぱりこの文化の部分は。
日本から世界へ広がるKOLLAMAT®の未来
―日本だったらどういう業界・製品でKOLLAMAT®を活用してほしいと考えますか?
KOLLAMAT®は、全てのこのハプティクス(触覚技術)が関わる製品をレベルアップさせることができます。スポーツや、フィッシングなどのレジャー、日本でもDIYは人気ですから庭関係の道具もいいと思います。
それにフィットネスの道具、例えばトレーニングマシーンの持ち手は、プラスチックやゴムが使われていますが、こういうところにKOLLAMAT®があったら利用者のためにもなりますし、KOLLAMAT®を使ったマシンを採用していることが、そのジムが選ばれるポイントにもなると思います。今ドイツはバスケットのボールの制作にもチャレンジしています。
あとは、高級感。
日本人はやっぱり高級なものが好きですよね。世界中そうだけど。
KOLLAMAT®は高級感を製品に与えます。例えば文房具やホームアクセサリー、スマートフォンケースのように機能性と高級感が求められるものとはとても相性がいい。革張りの椅子だって、現在は手すりはプラスチックのものが多くありますが、ここにKOLLAMAT®を使えば完璧です。そういう大事なところでレベルアップができる。デザイナーさんのアイデアが広がる楽しい部分だと思います。
簡単に言うとハプティックスと高級感。この2つがどんなものにでも確保できます。
―皆さんのヒントになるような先行事例は?
先程言っていたKOLLAMAT®のデッキですね。フィンランドで人気あるみたいで、北の方の国でよく売っています。日本でもランドスケープにおいてウッドデッキを採用することが増えていますので、熱くなりにくいKOLLAMAT®のデッキが普及すればいいと思います。

あとはグリップス。
先ほどの工具だけでなく自転車のグリップもウォーキングスティックなど。イタリアのスーパーマーケットではカート手すりにも採用されています。ヨーロッパではいちばん売れるのはこのグリップのジャンルでの利用です。
他には、老人ホームや幼稚園では手すりにKOLLAMAT®が使われています。鉄やアルミニウムにくらべて、KOLLAMAT®で表面を覆った手すりはぶつかってもちょっとだけ柔らかい。
オートモーティブやインテリアの分野でも動きがあります。
KOLLAMAT®を内装に使った車種がそう遠くないうちに発表されるでしょう。
挑戦するデザイナーたちへ
―最後に、日本のデザイナーや商品企画担当者へのメッセージをお願いします。
KOLLAMAT®は、「革新」と「進歩」と「サステナビリティ」この3つを皆さんに提供します。
似たような製品であっても、プラスアルファのユニークな点があることで、セールスチャンスも上がります。他者に差をつける、プレミアムとユニークな部分が非常に大事だと思います。品質の高い素材だということは見て触っていただければ分かると思いますが、誰もが同じようにこの扱えるわけではありません。だから真似しにくく、コピーもそう簡単には出ない。この点で「KOLLAMAT®の難しさ」は利点となります。
KOLLAMAT®は、私の知っている限りアジアではまだ広がっていません。
日本の皆さんが手にすることで、世界に自然に広がると思っています。TOYOTAが使うと日本車と共に世界的に広がっていくように。
例えば、中国は多分の生産技術は世界トップなんですよ。だから何かすでにあるものを作ろうとなれば、もうドイツよりもどこよりも完璧なものを安く作れる。
ただ自分からアイディアを出して1から作る、製品開発でまだまだ弱い。
でも、特に日本とか韓国はそういうところが強い。新しいアイディアや技術が出てくる。この分野ではたぶん中国はそう簡単には勝てないと思います。
だからこれも真似されると心配になるかもしれませんが、KOLLAMAT®と同じものを作るには、膨大な時間とコストがかかります。そう簡単に真似はできません。
だから恐れず、非常に楽しいことができると考えてください。アイデアがわいたら、まずは相談してください。ノウハウがないまま試作が失敗して、KOLLAMAT®が悪いとか面白くないという結果になるのはとても不幸なことです。
どこにどう使いたいかが決まれば、これはレザーファイバーがどの割合のものを使った方がいいなど、素材選びや作り方のポイントは我々や松井製作所がアドバイスできます。皆さんの代わりに松井製作所が研究していますので、そのリソースを活用してください。
それとサステナビリティ。
言葉としてはあちこち出てくるけど、そんなに今みんな意識して生活してない。でもやっぱり大事なんですよね。
もともとKOLLAMAT®はバーダー社長のそういう意識からできています。
牛は革のために殺すものじゃないけど、牛革は動物の死によって手に入る素材なんですよね。最後の最後までに大事に使いたい。そして環境に悪いものはなるべく減らしたい。そういう部分は非常に大事です。
KOLLAMAT®は革の廃棄物をアップサイクルした素材ですが、そのサステナビリティだけでなく、より優れた技術的特性で、多くの産業においてプレミアム素材としての世界的な地位を確立するでしょう。
日本のデザイナーがどのような新しいアイデアを出してくるか楽しみにしています。
それを現実にする方法を考えるのが我々の仕事。まずは皆さんのアイデアを気軽にどんどん相談していただきたいです。

松井製作所大阪事務所にて
KOLLAMAT®の可能性をその手で確かめてください
