KOLLAMAT® PICK UP
革のようなぬくもり、プラスチックのような機能性。 そしてサステナビリティをも兼ね備えた、新たな複合素材「KOLLAMAT®」。
本素材を開発したドイツの老舗皮革メーカーBADER社。今回はバーダー・ジャパン代表のトーマス・シュピンレル氏に、KOLLAMAT®との出会いや、この素材が秘める可能性、日本で商品企画に携わる方へのメッセージを伺いました。
きっかけは一本のボールペン
―最初に、KOLLAMAT®という素材との出会いについて教えてください。
2011年にバーダー・ジャパンの代表に就任し、ドイツ本社を訪問したときのことです。そこでバーダー社長から一本のボールペンを贈られました。革のようで革ではなさそうな材質のペン。不思議に思って「これはなんですか?」と社長に尋ねると、「それはKOLLAMAT®だ」と教えてくれました。その質感に驚きました。手に持ったときの心地よさ、そしてわずかに香るレザーの匂い。この体験が私とKOLLAMAT®の出発点でした。
BADER社は車のレザーシートとして皮革製品を製造販売する会社です。これは革シートの製造工程で出る端材や粉状の廃材を再利用した、レザーファイバーコンパウンド素材です。廃棄物として処理されていたものを何とか再活用できないかという思いから、ドイツの大学との共同研究でこの素材KOLLAMAT®が生まれました。

革の温もりとプラスチックの機能性をひとつに
―KOLLAMAT®はどのような特徴を持った素材なのでしょうか?
KOLLAMAT®の一番の魅力は、革のような温かみのある触感と香り、プラスチックの実用性を併せ持っている点です。革の繊維自体がコンパウンド全体に作用することで、素材としての価値を一段引き上げることができます。
ただ「革っぽく見える素材」ではありません。触ったときにわかる、やわらかな凹凸感、手に吸い付くような感触、そして自然でマットな光沢。そこにほのかに漂うレザーのような香りが加わることで、まさに五感で「革のような」存在感を体験できるのです。
加えて、KOLLAMAT®は射出成形や押出成形により、複雑な形状や精密な意匠表現にも適しています。これは本革や合成皮革では難しい領域であり、「革の感性を持った成形素材」として、開発担当者やデザイナーの創造性を刺激する素材だと感じています。

革の特性からKOLLAMAT®には3つ素晴らしい特徴があります。
まずは吸湿性。
たとえば、欧州ではKOLLAMAT®を使用したグリップが広がっています。
なかでも、すでに実用販売されている工具は手に優しいと好評です。
通常、金槌などのグリップはプラスチック製の工具が一般的ですが、汗で滑り、硬いため手にマメができてしまいます。KOLLAMAT®を使用したグリップは手の汗を適度に吸い取り、感触も柔らかいためマメができにくく「同じハンマーで1日持つなら、コルクやプラスチックより絶対これ!」と職人さんたちから人気があります。
次の特徴は滑りにくさ。
例えば通常のプラスチック製のハンガーはジャケットかけると普通の滑ってしまう。先ほどのグリップでもそうですが、適度な摩擦があるということも革ならではの特性です。
最後は、温度のコントロール。
BADER社では4年ほどかけてKOLLAMAT®製のウッドデッキを開発しました。通常のウッドデッキは、木材とプラスチックでできていて、日差しで高温になりやすい。しかし、KOLLAMAT®を使用したウッドデッキは熱くなりにくく、真夏に子供が裸足で歩いても火傷をすることがありません。
雨や湿気への耐性でいうと、釣り竿にKOLLAMAT®を使えないかと思い、KOLLAMAT®のグリップを塩水に何ヶ月か浸けたり、湿度の高いお風呂場に置いたりしてどうなるかを実験しています。今のところは大丈夫そうです。
通常、革よりはプラスチックの方が湿気に強いですね。だからそのコンパウンドとして両方の実用性と温かさ、そしてハイクラスな気分という良いところが出てくる。これがKOLLAMAT®の魅力です。
ただ、日本は雨や湿気が多いので場合によっては、日本専用にカビを防止する何かを入れる必要が出てくるかもしれません。もちろんそれも可能です。
難しいから価値がある
―KOLLAMAT®を実際に使う上での技術的な課題はありますか?
はい。KOLLAMAT®は皮革を含んでいるため、温度や金型の使い方など、一般的なプラスチックと同じ条件ではうまく成形できません。サンプルを取り寄せて、とりあえず機械に入れてしまうと、後で機械の掃除も必要で生産がストップしてしまいます。
私もKOLLAMAT®に出会ってから14年、いろんなところに声をかけてコラボレーションをしてきました、デザイナーも興味を持っていて、いいアイディアがいっぱいありました。でも、悪い意味でもいい意味でもそう簡単なマテリアルではないんです。使いこなすにはプロのノウハウが必要で、ノウハウがあるとできることも、勝手に何かやると失敗につながる。そうすると、やっぱりいい結果にはつながりません。
松井製作所は完璧なパートナー
松井製作所の松井代表にはじめてKOLLAMAT®を紹介した際も「KOLLAMAT®はそう簡単なマテリアルじゃないですよ」と紹介しました。すると彼は「それがいいです。そのチャレンジが欲しかった」と言ったんです。
松井製作所は射出成形機のメーカーとして優れた技術と豊かな経験があります。それだけでなく、彼らはKOLLAMAT®を売り出す前に、1年もの期間をかけて素材を研究して成形ノウハウを構築してくれました。このマテリアルをちゃんと勉強してからお客様に出す、お客様をサポートできるベースを作る意識が最初からあったんですよね。
簡単ではないということは利点でもあります。プラスチックに革を入れただけでは絶対失敗する。KOLLAMAT®は簡単には真似できない。だからこそ、使用したアプリケーションの価値を高めることに繋がります。
松井製作所とパートナーシップを結ぶもう一つのメリットは、優れたネットワークと充実したカスタマーサポートです。
100年を超える歴史の中で培われた松井製作所のセールスネットワークがあれば、我々だけではアクセスできないお客様へKOLLAMAT®を届けることができます。
松井製作所とパートナーシップを結ぶもう一つのメリットは、優れたネットワークと充実したカスタマーサポートです。
100年を超える歴史の中で培われた松井製作所のセールスネットワークがあれば、我々だけではアクセスできないお客様へKOLLAMAT®を届けることができます。
また、松井製作所が広めることで、テスト成形まで一気通貫でサポートはできますよね。
これはお客様の安心感にもつながります。
焦って何か売ろうっていうところではなく、ゆっくり素材を研究・マスターしてから販売することで、お客さんのパートナーになろうとする。最初からそういう印象があったので、これは良いパートナーシップだと感じました。
だからバーダーでの何十年の経験をもとに、松井製作所としっかりしたコラボレーションを作り、難しくて面白い、この挑戦的なマテリアルを日本で拡大したいと思っています。
<後編に続く>

後編では、日本市場に向けた挑戦と文化的な翻訳者としての役割、そしてデザイナーへの熱いメッセージに迫ります。
KOLLAMAT®の可能性をその手で確かめてください
